Access to Materials デザイン/アート/建築のためのマテリアルコンピューティング入門
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Access to Materials
デザイン/アート/建築のためのマテリアルコンピューティング入門

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¥2,860 (税込み)
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Description

素材に着目した、フィジカルコンピューティングと電子工作の入門書。サーモクロミックインク・導電インク・導電糸などの“魔法の素材”と、Arduino・Proessing・Pure dataなどのオープンソースのツールを組み合わせることで、新しいものづくりを読者に提供することを目指します。
素材は、すべてのものづくりの根底にあるものです。素材が表現を規定し、素材がシステムの構成や組み立て手順を方向づけます。本書で提示する「マテリアルコンピューティング」が、デジタルとフィジカルが融和したものづくりの未来を切り開きます。

はじめに

本書は、素材に着目したフィジカルコンピューティングの入門書です。テクノロジーありきでデザインを考えるのではなく、ものづくりで当たり前に考えるべき「素材への眼差し」を、インタラクティブなモノの設計に導入しようという試みです。

しかしその延長線に広がる世界観は決して平凡なものではなく、極めて未来志向と言えます。すなわち、私たちがプログラムする対象は文字や画像から物質に変わるというパラダイムシフトです。私たちは仮想空間の物体の色や形をプログラムすることができますが、それと同じように実空間の物体の色や形もプログラムする世界が到来しようとしているのです。それを「プログラム可能物質(Programmable Matter)」という人もいますし、「ビットからアトムへのシフト」と言う人もいます。サイエンスの世界で言えば、細胞の自己複製能力を利用して人工物を作ろうとする合成生物学や、物質の自己組織化を利用して分子レベルのマシンを作ろうとしているナノテクノロジーもその流れにあります。これらの動向は、煎じ詰めれば、物質にプログラマビリティを与える試みと言えます。

技術が進歩してデジタルとフィジカルがシンクロした世界が普及するのを手を束ねて待つ必要はありません。現代は、手に入るありものでブリコラージュすることで、ほとんど全てのものを作り出せる時代です。そこで活躍するのがオープンソースのクリエイティブなツールです。ProcessingやPure dataなどのソフトウェアとArduinoなどのハードウェアを駆使すれば、誰でも対話的なプロダクトのMakerになれます。しかしそれだけでは物質にプログラマビリティを与えることはできません。そこで登場するのが特殊な機能を持った機能性素材です。様々な外部刺激に応じて色や形を変えられるマテリアルとフィジカルコンピューティングとを融合することで、マテリアルのコンピューティングが誕生します。本書は、そのためのブリッジとして機能します。

フィジカルコンピューティングという概念が生まれて、私たちは計算結果をディスプレイではなくモノに出力する意味と面白さを理解し始めています。これは大きな一歩ではありますが、コンピュテーションによるものづくりと私たちが作り上げてきた伝統的なものづくりの間には依然として大きなギャップがあります。LEDやサーボモータなどの既存の部品だけを使う段階を超えて素材のレベルにまで手を伸ばすことができれば、コンピュテーションによるものづくりの意味は文化や精神のレベルに踏み込むことになります。洋の東西を問わず職人やクラフトマンは常に素材と素直に向き合ってきました。彼らは素材の特性や状態を見極め、適切な構造や加工を考えることで、美しい表現を生み出してきました。その結果生み出された美しい工芸品や手芸品は、私たちの日常に深く染み込み、日本人の行動様式や美意識を醸成してきたといっても過言ではありません。例えば、日本の空間定義は和紙が重要な役割を果たしており、障子が内と外を分け、襖や屏風が空間の意味を仕切ってきました。身体は紙子に守られ、紙に感情や情景や物語を記述してきたのです。また一方で、素材が身体の動きを規定し、その相互作用から新しい技や表現が生まれてきた事実も無視できません。デジタルテクノロジーはこれらの蓄積を過去のものとして切り捨てるのではなく、それらと融合して新しいスタンダードを作るものであってほしいと思います。電子書籍を例にすれば、紙は過去のものとして切り捨てるのではなく、紙の素材性とコンピュテーションを融合する方向に舵を切る選択もあっていいのです。マテリアルコンピューティングは、手芸・工芸・絵画・カリグラフィなどの職人的技法と、フィジカルコンピューティングやクリエイティブコーディングなどの新しい技術を、素材を触媒として高度な美意識の上に調和を試みる行為なのです。

本書は、そのような思想を製作行為を通してご理解いただくために作られました。素材の世界はドロドロです。プログラミングの世界のように抽象的な思考に基づき理路整然とした美しさを作ることは難しく、指を切ったり服を汚したりしながら様々な物質と向き合うことを通してのみ道を開くことができます。少々危険な薬品も扱いますが、それに臆することなくむしろ小学校の図工の時間で感じたような純粋な好奇心を大切にしながら、個々のレシピを実行していただければ幸いです。真の理解とは、身体的な経験を通してのみ達成されるものだと信じています。この思想はコーディングにおいても同様です。全てのソースコードは書籍の特設サイトからダウンロードできますが、冗長さを承知の上で全てのソースを紙面に記載しています。一字一句をキーボードを叩いて入力するといういわば写経とも言うべき行為を通してのみ、創造の力は宿るものだと信じています。

本書は以下の読者を想定して書かれました。

・手芸や工芸に興味があり、インタラクティブな技術も使ってみたい方
・フィジカルコンピューティングを始めたい方。特にその技術的側面よりも表現の可能性に興味をもっている方
・デザイナー。特に特殊な複合素材を用いたプロダクトやインタラクションをプロトタイピングしてみたい方
・建築家。特にキネティックな仕組みを持った模型やデザインインターフェイスを作ってみたい方
・素材の世界に翼を広げたいアーティスト

本書は電気の理論やプログラミングの話には深入りせず、製作を通した理解の促進に重きを置いています。専門性を求める方は中途半端な印象を持たれるかもしれませんが、本書を導入としてさらに専門的な書籍に手を伸ばして欲しいと思います。

本書は6つの章から構成されています。1章では、世界のマテリアルコンピューティングの事例を紹介します。本書のレシピの原型となる作品にも触れます。2章では、本書で用いる特徴的な素材と、作業を堅実にサポートしてくれるツールを紹介します。筆者が最適と考えている入手方法も紹介しますので、初心者の方は必読です。3章は、少し眠たくなる危険をはらんだ方法論とデザイン言語の解説です。これは筆者の創作の営みを振り返り言語化したものです。すぐに製作に入りたい方は読み飛ばして構いません。4章は基礎編として、日常生活に溶け込むインテリアの製作を通して、本書で扱う機能性素材の特徴を学びます。すでにフィジカルコンピューティングの経験がある方はここからスタートしてみるとよいでしょう。5章は応用編に位置づけられていますが、本書のメインディッシュとなる章です。4章で作成した色が変わるマテリアルにArduinoを接続し、素材をプログラムする方法を学びます。6章は高度な応用編です。ProcessingやPure dataを用いてマテリアルをCADやSNSとシンクロさせる方法を紹介します。

本書を読み終えるとき、あなたは新たな理念としてのマテリアルコンピューティングを体得していると同時に、デジタル技術と素材とを融合する心を持った新しいクラフトマンへの一歩を踏み出しているはずです。

 

脇田 玲

ISBN:978-4-86100-843-6
定価:本体2,600円+税
仕様:256ページ/B5判変型
発売日:2013年04月15日
著者:脇田 玲

Profile

脇田 玲(わきた あきら)
慶應義塾大学環境情報学部准教授
2002年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。博士(政策・メディア)。ラティス・テクノロジー株式会社、フリーランスを経て、2007年より、慶應義塾大学環境情報学部准教授。スマート素材、ロボティクス、CAD/CAMの知見を統合したデザインエンジニアリングのアプローチから、変形、変色、自己組織化するシステムのアーキテクチャを追求している。主な著作に『x-DESIGN―未来をプロトタイピングするために』(慶應義塾大学出版会、2013)、『Matter in the Floating World』(PrincetonArchitectural Press、2011 共著)『デザイン言語入門―モノと情報を結ぶデザインのために知っておきたいこと』(慶應義塾大学出版会、2009)がある。

Contents

はじめに

第1章 マテリアルコンピューティングの胎動
1.1 素材性とインタラクション
 1.1.1 マテリアルコンピューティングとは
 1.1.2 素材にプログラマビリティを与える
 1.1.3 日常生活を豊かにするレシピ
 1.2 世界中で注目を集めるマテリアルコンピューティング
 1.2.1 Textile-based Computing―布を用いたマテリアルコンピューティング
 1.2.2 Paper Computing―紙の意味を問い直すインタラクション
 1.2.3 パラメトリックデザインと建築
 1.2.4 本書のレシピの原型的作品
1.3 オープンソースとマテリアルコンピューティング
 1.3.1 オープンソース
|コラム|しずちゃんの法則

第2章 素材と道具
2.1 魔法の素材
 2.1.1 インク
 2.1.2 繊維
 2.1.3 その他
2.2 道具
 2.2.1 電子工作の道具
 2.2.2 工具
 2.2.3 その他の道具
 2.2.4 ソフトウェア
2.3 素材と道具の入手
 2.3.1 最初は通販を利用しよう
 2.3.2 手芸用品や画材の購入
|コラム|ものづくりと哲学

第3章 デザインの手順と言語
3.1 デザインプロセス
3.2 素材性に着目する―Materiality
3.3 素材のコンポジション―Composition
3.4 プログラマビリティを与える―Programmability
3.5 概念を物質化する―Materialization
3.6 多様なスケールに展開する―Scalability
3.7 PassiveとActive―Controllability
|コラム|モノと情報

第4章 クロミック素材を使う
4.1 変色原理とクロミック素材
 4.1.1 クロミズム―変色の原理
 4.1.2 サーモクロミックインク
 4.1.3 カメレオン素材
4.2 サーモクロミックインクとフォトクロミックインク
 4.2.1 クロミックインクの購入
 4.2.2 サーモクロミックインクの実験
 実験1:サーモインクで絵を描く
 実験2:サーモインクで布を染める
 4.2.3 フォトクロミックインクの実験
 実験3:フォトクロミックインクで絵を描く
4.3 環境とのインタラクション
 4.3.1サーモクロミックインクの実験2
 実験4:食器の温度で変化するプレースマットを作る
|コラム|我が身の置き場所

第5章 Arduinoを用いた素材の変色
5.1 Arduino入門
 5.1.1 Arduinoと電子工作
 5.1.2 統合開発環境のインストール
 5.1.3 Hello World
5.2 アニメーションするテキスタイル
 5.2.1 動的なインテリア「Kerido Fabric Board」
 5.2.2 導電糸の実験
 実験5:導電糸で回路を作る
 実験6:導電糸とサーモクロミックインクで変色する布を作る
 5.2.3 導電糸の実験2
 実験7:アニメーションするテキスタイルを作る
5.3 アニメーションする絵画
 5.3.1 インタラクティブな絵画作品「ANABIOSIS」
 5.3.2 導電インクの実験
 実験8:導電インクで紙の回路を作る
 実験9:導電インクを使って静電容量センサを作る
 5.3.3 導電インクとサーモクロミックインクの実験
 実験10:アニメーションする絵画を作る
|コラム|Technology, Philosophy and Methodology

第6章 デジタルとフィジカルの対話
6.1 GUIを作る―Processingによるマテリアルの制御
 6.1.1 Processingとコンピュテーショナルデザイン
 6.1.2 Processingの作法を理解する
 6.1.3 シリアル通信によるProcessingとArduinoの接続
 6.1.4 controlP5ライブラリによるGUIデザイン
 6.1.5 FirmataによるProcessingとArduinoの接続
 6.1.6 マテリアルのGUIを作る
6.2 デザインツールを作る―変形する布とベジェ曲面の同期
 6.2.1 プログラマブルな布「pSurface」
 6.2.2 Processingによるベジェ曲面の描画
 6.2.3 人工筋肉と曲げセンサを用いたベジェ曲線の物質化
 実験11:BMXの収縮を体験する
 実験12:BMXの緊張と弛緩の繰り返しを実現する
 6.2.4 バイオメタルと曲げセンサを用いた変形ユニット
 実験13:バイオメタルと曲げセンサを用いた変形ユニットを作る
 6.2.5 人工筋肉と曲げセンサを用いた自由曲面の物質化
 実験14:自由曲面を物質化する
6.3 SNSとつながるマテリアルを作る―Twitterと連動するアンビエントデバイス
 6.3.1 アンビエントデバイスとは
 6.3.2 TwitterとArduinoを連動させる
 6.3.3 Twitterに反応するテキスタイルを仕上げる
6.4 布のセンサとPdを用いたサウンドデバイスを作る
 6.4.1 導電糸による布のセンサ
 実験15:導電糸で布のセンサを作る
 6.4.3 Pure data入門
 6.4.4 Pduinoを用いたPdとArduinoの連動
 6.4.5 Pdによるサウンドプログラミング
 6.4.6 布のセンサ、Arduino、Pduinoの連動
 6.4.7 Material Syncretism

Interview
・渡邉康太郎
・山中俊治
・田中浩也
・小川秀明

おわりに

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